子どもたちが活発に
2021年 02月 25日
国産材で建てた開放的な家
「森や神社の参道にある木々の中を歩くのが好き。
抱えられないほど大きな木のそばに立つと、とても癒やされるんです。」
そうおっしゃったのはNさん。妻と三人の息子さんと暮らす三十代の男性です。
「日本の木で家を建てたい」と住宅展示場に足を運んだそうですが、夫妻が思い描いていた骨太の木の家は見当たらずじまい。そんなとき、私が手がけた国産木材と自然素材の家を雑誌で見て、連絡をくださいました。
間取りなどの打ち合わせを進めるかたわら、地元で伐採、製材された大きな材木が芳香を放つ製材所へお連れしました。太さが四十センチほどもあるアカマツに触れながら、「これが私たちの家のはりになるのですね!」と満足げなご家族でした。
上と下の息子さんは小児ぜんそくでアレルギー体質です。天然木に対してもアレルギーを起こす人がまれにいるとお話しし、しばらくそばに置いて試してほしいと、使用予定のヒノキ、スギ、サワラ、アカマツの端材を持ち帰ってもらいました。
住む人に安らぎを与えてくれる木ですが、良い面ばかりでもありません。自然のむく材は一本一本が少しずつ違います。構造材では節もあれば多少の割れやねじれがあること、板材でも反りや収縮があることをお話ししました。Nさんからは「うわべのきれいさよりも、本物だということの方が僕には大事です」との答えが返ってきました。
柱やはりを壁や天井の中に隠さずに見せ、昔ながらのしっくいの壁と引き戸を多用した開放的な家が出来上がりました。
床は三・八センチの厚いサワラ板張り。柔らかい材で、普通に暮らせば必ずつく傷やへこみを夫人はとても気にしていました。が、しばらくして訪ねると、「日に焼けて、あめ色になってきたこともあり、全然気にならなくなりました。柔らかいので、家事をしていても疲れない。何より、素足で歩いて、とても気持ちがいいんですよ」とうれしそうです。
そして「子どもが転んでもけがをしない。この家に越してから、息子たちは活発になりました。ぜんそくもアレルギーも今のところ出ていないんですよ」。
一番気になっていた点も大丈夫のようでした。

■イラスト:勝見紀子 西岡麻里子
今、執筆を振り返って・・・
仕事係担当ということで、まとめ役をやりながらの執筆でした。打合せや連絡は執筆者募集からすべてメールで、今フォルダをのぞくと300通以上を皆さんと交わしたことがわかりました。やり取りをしながら、編集者の三好さんの妥協しない仕事の進め方と、西岡さんのプロのイラストレーターとしてのこだわりに触れ、大いに刺激を受けたことは役得でした。
自身の執筆においては、木の住まいづくりに関し、日本の山を元気にする話や、受け継がれた職人の手仕事のことなど、書きたいことは他にもありましたが、今回は「素材としての木と住まい手」に絞り書きました。
(※2007年 共同通信社からの依頼を受け、地方紙に連載された記事です。)
一級建築士・勝見紀子
by jogikai | 2021-02-25 10:00 | 建て主の言葉はアイデアのもと | Trackback | Comments(0)