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町屋玄関の踏み石

ここのところ、京都の町にたびたび出かける機会を得ています。

歴史ある神社仏閣を訪ねては、そのスケール感や計算しつくされた美しさ、年月と贅をつぎ込んだ技術に、毎回圧倒されています。

一方、人々の住まいや商いの場として、平安時代から昭和まで進化を遂げながら、今も多く存在している京町屋も、京都を象徴する建築物です。

軒が連なるその街並みを歩くと、統一感のある素材や造形と、修繕が行き届き清潔に保たれたオモテが、この上なく風情のある通りをかたち作っていて、暮らす方々への敬意の念が芽生えてきます。

外から眺めるだけでも、そのつくりに様々な工夫が見て取れる町屋ですが、常々ヒントになるなあと注目しているのが、各戸の玄関前の小さなスペースです。

元々町屋は武家住宅や農家とは異なり、塀や門を持たず、商いを行うため通りに開いたつくりとしたのが始まりなので、道と玄関の間に「引き」がありません。「引きがない」とは、後退する空間的余裕がないということです。

そんな中でも、通りから一歩踏み込み、人ひとりが玄関戸の前に立つことができるスペースは確保されていて、そこには必ず一枚の踏み石が、床面に埋め込まれているのです。

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十分なスペースは取れないけれど、この一枚の石が設えられていることで、一戸の家を構えていることの威厳を保とうとしているように見えます。同時に、ここに立つ人には、この先の個のスペースを訪れる心構えを持ってね、というような結界の役目を果たしているようにも見えます。門や塀のないこの小さなスペースの、空間の質をピシッと決めているエレメントです。

京町屋のような古い歴史を持つ地区ではないのですが、小さなゲストハウスのための改修を行う機会を得ました。

知り合った庭師さんが、古い建物の解体があると聞くたびに少しづつ集めてきたという踏み石を見せてくれました。

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この中の一枚をゲストハウスの玄関戸前に埋め込みました。

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モダンに生まれ変わった踏み石

狭小の住宅地では、京町屋と同じように門や広々としたポーチやアプローチを取るのは難しいものです。そんな中にあっても、通りにフレンドリーに開きつつプライベートな空間への緩やかな線引きができる方法を考えていきたいものです。

写真・文:勝見紀子 / 株式会社アトリエ・ヌック建築事務所

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※『女性建築技術者の会(通称:女技会)』とは、建築に関連する様々な仕事を持つ女性が主体的に運営する任意団体です。
 女技会のホームページは→コチラ

by jogikai | 2022-07-15 08:00 | 素材・仕上材 | Trackback | Comments(0)  

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