つかず離れず、母を支える住まい
2022年 09月 15日
誰にでも快適なユニバーサルデザイン化。
マンションスケルトンリフォームです。
娘さんは、パーキンソン病のお母さんを見守る暮らしをしています。お母さんは、家具や壁・手摺などを伝ってゆっくりと歩き、娘さんの手を借りながらも、家の中では、一応、自助生活を送っています。たまに、室内で歩いている時、転倒するので、娘さんは目が離せません。とは言え、四六時中、直に顔を合わしているのは、息苦しさを感じることもあるようです。
このリフォームでは、お互いが付かず離れず適度の距離感をもちながらも、お母さんの容体の変化にすぐ気づくこと、そして、手摺で安全に自由に動けることが求められていると考えました。
リフォームの要点は3つ。
・娘さんの仕事部屋(写真右手)とLDKとの間仕切り壁をとっぱらい、ワンルーム化を。LDKに居るお母さんの気配が、仕事中にも分かるように。
ワンルーム化は、広く、見通しが良いのですが、手摺が取付けらえない欠点があります。
その解消として設けた、LDと仕事エリアの境のロウキャビネットは、心理的なエリア分けと手摺設置の役目となっています。
ロウキャビネットの両端には可動手摺を採用し、途切れない手摺、スムースな動線により、お母さん一人でLDや寝室からトイレ(トップ写真奥)まで進めるようになりました。
・よく見かける壁に向かったキッチンセットを対面キッチンに変えること。
対面キッチンというと、子育て家族のツールと思いがちですが、消してそうではありません。カウンター上部の食器棚は使い勝手はもちろん、時には、視線をそらす狙いもあります。
・とかく高齢者の住まいと聞くと、手摺の設置を思い浮かべますが、手摺を張り巡らした介護施設のようになるのは、一緒に暮らしている方にとっては、便利ではあっても、快適な住まいとは言えません。
こちらのリフォームでは、腰壁を木目のきれいな杉板張りに、上部の壁は少し赤みを帯びた珪藻土を塗り、手摺が主張しないように、です。
転倒対策としての床のカーペットは杉板が映えるベージュで、部屋全体が暖かく、しっとりとした色彩りに纏めました。
適材適所の手摺は、身体の弱った方へのサポートとなり、自分一人での行動範囲を広げ、日常の行動がリハビリに繋がり、最後まで自助生活が送れるよう住まいが身体を支えます。
サポートする側にも、精神的負担の軽減となるでしょう。
たかが手摺、されど手摺―と言ったところでしょうか。
文・写真:加部千賀子/一級建築士 加部設計一級建築士事務所
女性が主体的に運営する任意団体です。
by jogikai | 2022-09-15 22:29 | リフォーム | Trackback | Comments(0)